どろろの時代と加賀一向一揆 ~なぜ手塚治虫は加賀を舞台にしたのか考察~

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『どろろ』をさらに楽しむために知っておきたいこと

2019年1月から手塚治虫の『どろろ』が再アニメ化しました!
1969年にアニメ化してから50年、再ブームの気配を感じます。
今回は『どろろ』をもっと楽しむために知っておきたい時代背景をお話していきます。

なお、この記事では作品としての『どろろ』と主人公としての「どろろ」を区別するために、作品としての『どろろ』には『 』をつけて表記します。

『どろろ』は戦国時代の話

信長の時代より約100年前の話

『どろろ』の時代は室町時代中期とされています。応仁の乱以後を日本の戦国時代というのであれば、『どろろ』も戦国時代のお話です。
とはいえ、戦国時代の代表ともいえる織田信長の時代よりも100年ほど前の話で、1400年代半ばが舞台となっています。

富樫政親の時代

ではなぜ信長の時代より100年ほど前と言えるのでしょうか。

主人公・百鬼丸の父親である醍醐景光加賀国の守護大名・富樫政親の家臣です。
この富樫政親ですが、実は実在する人物であります。この富樫政親の情報から舞台となった時代を割り出していきましょう。

富樫政親は1458年に誕生し、後述する加賀一向一揆によって1488年にこの世を去っています。
この富樫政親ですが、Wikipediaによると3歳のころから加賀半国を支配していた赤松政則と抗争を繰り広げていたらしく、生まれてすぐに家臣団に富樫家の当主として擁立されていたことがわかります。
作中では具体的に何年から何年の話という記述はありませんが、こうしたことから『どろろ』は富樫政親が生きていた1458年から1488年あたりの話だと考えられます。

かなり殺伐した世界なので、1467年に始まり、日本を荒廃させた応仁の乱を経ているとも見られます。

加賀という土地

朝倉領との国境

だいたい紺色の枠内に醍醐景光の砦があった……(?)

『どろろ』の舞台となった場所も明確には知らされていませんが、「朝倉領との国境」に醍醐景光の砦があったと描かれています。

朝倉氏は応仁の乱により富樫氏の加賀に隣接する越前の守護大名となったのですが、この加賀と越前の国境、現在で言うと石川県加賀市あたりに砦があったものと思われます(また、こうした朝倉氏の事情からも、やっぱり『どろろ』は応仁の乱後の話といえますね)。

どろろと百鬼丸は加賀と越前あたりを旅していたのではないでしょうか。

加賀の一向一揆

加賀といえば、大河ドラマのタイトルにもなった「加賀百万石」を思い浮かべてしまいますが、それは豊臣秀吉の時代に前田利家が治めるようになった後の話。

では『どろろ』の時代、何が加賀の名物(?)だったかというと、一向一揆でした。本願寺の門徒と加賀を治める富樫氏との争いのことです。

この加賀一向一揆ですが、もともとの原因は富樫政親にありました。

ざっくりとまとめますと、お家騒動により、弟に当主の座を追われた政親が本願寺の力を背景に返り咲くのですが、そのまま本願寺の力が強くなってしまい、コントロールができなくなってしまったことが加賀一向一揆の契機となりました。

百姓の持ちたる国

勢力を強める本願寺に対して、なんとか政親も支配の手を強めようとするのですが、逆に本願寺側に攻められ、政親は自害に追い込まれます。

その後、本願寺が富樫氏の当主を擁立し、事実上本願寺が加賀の国を支配するようになります。
このことから、織田の領地となるまでの約90年もの間、加賀は「百姓の持ちたる国」と呼ばれるほど、武士の力が及ばない国となりました。

戦国時代を扱ったゲーム「信長の野望」において、加賀の地が大名ではなく、本願寺の勢力になっているのには、こういった理由があるんですね。

考察:手塚治虫が描きたかったもの

醍醐景光と富樫政親

これまでは『どろろ』の時代背景を見ていきました。
最後に拙いながら『どろろ』についていくつか考察していきます。
まず、醍醐景光ですが、モデルは景光が仕えた富樫政親のように感じられます。

上述の通り、富樫政親は協力を仰いだ本願寺の教徒たちに攻められ自害に追い込まれます。
醍醐景光は原作の漫画では村人に領地を追われ、1969年のアニメ版では自身も魔物と化し、百鬼丸に討ち取られます。

両者ともに自分の力のために人ならざるものの力に頼りますが、最後はその力によって身を滅ぼします。

その後の世界

『どろろ』は連載当時は人気がなく、打ち切りに近い形で終了してしまったそうです。
原作である漫画版の『どろろ』はどろろを残して百鬼丸が旅を続けるというところで物語の幕がおります。

もし、『どろろ』の物語が続いていたらどうなったのでしょうか?
Wikipediaには、手塚治虫先生は「自分の体を取り戻したとき生きる目的を失うわけですから、当然坊主になって放浪ですよね」といっていたようです。
もちろん本人がいうのだからそうに違いありません。
しかし、加賀の国はどうなったかというと、これまで見てきたように「百姓の持ちたる国」となります。

原作版醍醐景光は領民から土地を追われてしまいますが、同様に加賀全体で武士が幅を利かせなくなる世界がきて『どろろ』の幕は下りる予定だったのではないでしょうか?
そうでなければ、1400年代の「加賀」というかなりマイナーな土地を物語の舞台に選ぶことはないように思われます。

50年前に放映された初代『どろろ』のOPは2種類あり、どろろが動き回る「コミカル」版とどろろと村人たちが一揆をおこす「一揆」版が存在します。こうしたことからも、『どろろ』の物語の目的がサムライ・武士を打ち倒すことにあったのではないかと考えます。

2019年の新『どろろ』のアニメがどうなるかはわかりませんが、今後の展開が楽しみですね。

2022年の追記

新しいこっちのサイトに転載するため、この記事に目を通したのですが、残念ながら新『どろろ』にも加賀ならではのエンディングにはならなかったですね。

同人ゲームでいつか自分なりの『どろろ』のラストを描きたいなと思っています。